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死の壁

わたしたちは、死亡率100%の生き物なわけですが、どうにもこうにも、このことが理解できていないので、わたしたちの社会はトンチンカンなことが起きてくる。

こんな風な思いが、本書「死の壁」の読後感でした。

「あ、そうだな」と思うトピックが多いので、一読をお勧めします。

わたし自身、がぐっと身が入ったのは、著者が4歳のときの、お父さんとの別れのエピソードです。

実に心に来ました。

当時4歳の養老さんは、お父さんとのお別れができませんでした。

それは、父の死を認めない、子ども心であった、と彼は何十年も経ってから述懐するのです。

そうした、心の奥底に押し込めた物をずっと持ち続けていて、30歳半ば、自分が挨拶が苦手なことと父親の死が結びついていることに気付きます。

そこで、ようやく自分が、心の底では父の死というのを認めてなかったことを理解するわけです。

認めてなかったことが、それ以後の自分の判断なり考え、思考、もっと具体的に言えば、職業の選択や専門の決定などに影響を及ぼさないわけがない、と筆者の養老さんは分析します。

 

著者は、頭(意識)一辺倒になることは愚かだと、その他の本でも主張するのですが、人の考えか記憶など、自分の意識できてないところでどれだけ影響を受けているかわかったものじゃない。

そんなわかったものじゃない意識を完全無欠なもの・確実なものとして扱ってたら、どこかで不具合や不都合、不合理が起きるに決まってるじゃないか、という次第。

この本になぞって、わたし自身、自分の記憶を探ってみると、どうも、忘れない出来事や人があります。

今はわからないけれども、何らかの意味を持っていて、それが影響を与えているのでしょう。

そして、それがわかってくるのが年を取るということなのでしょう。

 

中高校生のお子さんがおられるなら、居間の本棚に入れておくべきかと存じます。
はやいうちに読んでおくべきでしょう。

 なお、めちゃくちゃに読み易いと思っていたら、養老さんがしゃべったことを文字におこしたとのことです。

優れた編集人の技術と、個性的な筆者の思いとが合わさった、値段以上の働きのある一冊かと思います。

 

・個人的メモ

死体とは仲間はずれ。

戦争は人減らし。急激な都市化の進展が背景。

安楽死が合法化されているオランダでは、安楽死に係る医者は、治療行為を行なわない。

安楽死は、それを実施する人の観点が全く抜け落ちがち。最終実施者の精神負担を見てない。

「こけし」は、「子消し」から来ているという説。小説「みちのくの人形たち」


死の壁

< 作成日 2011/01/08 >


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